Hell・God
ピッ、ピッ、ピッ…



聞こえるのは、心拍数を測る機械の音だけ。


目を開けても、見えるのは白い天井だけ。


頭には包帯。


手にも包帯。


…何が起こったのか、さっぱり思い出せない。



ノ「…ここ、どこ」


「あ、ノア、起きたのかい、心配したんだよ」


ノ「…おばあ、さま…おじい、さま…?」


目の前にいたのは私のお祖母様、お祖父様だった。

なぜお母様は来ないのだろう。

お父様は仕事…だろうか。


ノ「お祖母様、お母様はどこですか?」


祖母「…亡くなったよ。」


ノ「え…!なんで…!」


祖父「お前を殴り、意識がなくなったところでお母さんは自殺したよ。」


ノ「お母様が、私を殴った…?」


全く、記憶にない。

そんな、まさか。あんなに優しいお母様が、私を殴るはずがない。

いつもいつも、神に選ばれた人間と呼んで――


…私は、その呼び方が嫌いだった。


なぜ嫌いなのか分からない。なんとなく嫌いなわけでもない。

何か、何かがあるのだ。


ノ「…お父様は?」


祖父「仕事に行っているよ。」


ノ「…」



お母様が、私を殺そうとした。

殴られて意識を失うほどだったのだから。



私は窓の外を見た。


中庭に、何やら人影がある。


その影は誰かすぐに分かった。


ノ「お母様!」


お母様らしき人影は、ゆっくりとこっちを向いた。


間違いない。パープルのかかった金色の髪に、オレンジ色の瞳。

お母様だ。


ノ「お母様…最後に教えてください!」


ノ「なぜ、私を殺そうとしたんですか!」


お母様らしき人物は、何も答えなかった。


ただ私を見つめていただけだった。


そして、その場からゆっくりと、消えていった。


ノ「…お母様」


どれだけマザコンだったのかわかる。


母親がいなくなるだけで、こんなにも寂しいのだから。


祖母「ノア、あなたは一週間、絶対安静だそうよ。なにかあったらすぐ言うのよ。」


ノ「…分かりました」



…お母様が、死んだ。


…神に選ばれた人間、か。


なぜ私が、神に選ばれた人間と呼ばれるのか。


なぜお母様は、私を嫌っていたのか。


いくら考えても、答えは出てこなかった。
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