俺様上司と身代わり恋愛!?


1コールが終わったところで電話を取ったのは今野さんだ。

相変わらず、少し冷たく感じる声ではあるものの、きちんと自分の名前を言えているな、となんとなく聞きながら手元の仕事をしていると。
今野さんの声が焦りだし、先週のサンウェルさん事件が脳裏に蘇った。

どうしたんだろうと思い視線を向ける。
今野さんは右手でボールペンを持っているけれど、メモ帳にはなにも書かれていなかった。

通常なら、お客様の名前、口座番号など、聞いた情報を残していく。
つまり、まだ何も聞き取りができていないということだ。

「え、ですから、通帳を紛失されたんですよね? こちらで通帳使用をロックしますのでまずフルネームを……あの、津山様、まず落ち着いてくださいっ」

今野さんが眉をしかめながら大きな声で言う。

どうやら通帳を失くしたという内容の電話らしいけれど、お客様が興奮されすぎていてこちらの話が通じていないようだった。

ただの紛失でそうなってしまうのは珍しいから……盗難という可能性もあるのだろうか。

そう考えながら、手に負えず困ってしまっている今野さんに、電話をこちらに回すように言うと。

今野さんは顔をしかめながらも、お客様に「担当を代わりますので少々お待ちください」と口にして電話を回した。

受話器を取って、ああなるほど……と思う。
お客様はこちらの話を聞ける状態じゃないらしく、とにかくどうにかしてくれと一方的に怒鳴るようにして言っていた。

軽くパニックになっているのかもしれない。


< 101 / 174 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop