俺様上司と身代わり恋愛!?
「津山様、落ち着いてください。通帳は、すぐに誰もお金を引き出せないようにします。
ですから、落ち着いて、津山様のお名前と漢字を教えてください」
津山様は、声を聞く限りお年寄りのようだったから、言葉を分かりやすくしゆっくりとした口調で、なるべく柔らかい声を意識して話す。
〝通帳紛失〟や〝通帳使用をロック〟といったような言葉は、金融機関にでも務めていなければ日常生活でそこまで耳にするものじゃない。
だからスッと耳に入ってこないんだろうと思い、噛み砕いた言葉でゆっくりと言うと、津山様は少し落ち着いたのか、ようやくフルネームを口にした。
名前と漢字、そして住所から個人を特定し、津山様の持っている普通預金、すべてに一度ロックをかける。
それを端末上で設定し、今は津山様含め誰も引き出しができない状態だと伝えると、そこで津山様はようやく安心したのか口調を緩めた。
そんな様子にホッとしながら、とりあえずの処理はしたものの、きちんとした書類を作る必要があるため、近日中に、本人を確認できる運転免許証や保険証、それと届け出印を持って口座を開設した支店できちんとした手続きを踏んで欲しいとお願いし、電話を切る。
それから、津山様の書いた正式な書類がくるまでの仮の書類を制作しようと、棚から〝事故届〟の用紙を一枚抜き取ったところで、今野さんからの視線に気付いた。
座ったままこちらを見る今野さんの表情は面白くなさそうにしかめられている。
自分で処理できなかった事が悔しいのか……それとも、よりによって私に手助けされてしまった事が悔しいのか。
どういった心情なのかは分からないけれど……ここで目を逸らしてもダメなんだ、と気を強く持ち今野さんを見た。
そしてゆっくりと口を開く。