俺様上司と身代わり恋愛!?
トレーを持って立ち上がった美絵がぺこりと頭を下げ、それに対して課長が「早乙女さんも帰りお気をつけて」と返事をした後、頭を下げる。
「じゃあね、ゆず」と言って微笑んだ美絵が背中を向けて歩き出し、階段を下りて行く。
そんな姿をぼんやりと眺めてから……ハッとして課長を見上げた。
課長は私に視線を落とした後、小さくため息をつき、今まで美絵が座っていた席に腰を下ろす。
そして睨むように私を見た。
その表情が、あれ?と引っかかった。
いつもこういう時、課長は呆れたような顔をするのに……それとは少し違って見えた。
「営業三課の尾関だって? おまえ、なんで言わないんだよ。三ヶ月音信不通だったっていうふざけた元彼が同じ会社だって」
「……でも、別れてるし言う必要もないかと」
「別れてるならなんで今更言い寄られてるんだよ」
「言い寄られてるわけじゃないですよ。ただ、暇になったからって声をかけてきただけで……」
「他の女ときれて暇になったからっておまえに連絡してくるって事は、おまえならすぐ戻ってくるって踏まれてるんだよ」
「軽く見られやがって」と、イライラしながら言われてもどうにもできない。
軽く見られるような付き合い方してきちゃったのは確かだけど、それはもう過去だし。
今更私にどうこうできる事じゃない。
だけど課長があまりに気に入らなそうに頬杖をついているから「すみません……あの、仕事は?」と聞くと。
課長は頬杖をついたまま答える。
「ちょうど終わって外出たところだったから問題ない」
「そうですか……あの、すみません」
こんな何度も謝るのは逆撫でしちゃうだけだろうかと思いながらも、ピリピリしている様子の課長を前に思わず謝ると、課長はしばらく目を伏せて黙った後、視線を上げ私を見た。
射抜くような瞳に一瞬息がつまった。