俺様上司と身代わり恋愛!?
ぐいぐい押すのにちっとも離れない伸介に、力の差がこんなにもあるものなのかって驚く。
本気の抵抗が効かなくて、戸惑い、どうすればいいのかわからなくなっていたとき。
不意に、伸介の腕の力が弱まった。
「――離れろ」
そんな声が聞こえたのと同時に、うしろから肩を掴まれぐいっと引かれる。
うしろに倒れるようになったところで、背中がなにかにぶつかり……見上げてから驚いた。
今日も車通勤だったんだろうか。
課長の横顔を見上げて、呑気にそんなことを思った。
怒ってる……のかな、と不安になる。
伸介に向けられたままの眼差しが、あまりに冷たいものだったから。
課長は、伸介を見据えたまま口を開く。
「俺の部下に強引な真似はやめろ」
地を這うような声に、その場の温度が下がった気さえした。
聞いたことがない声のように感じ、戸惑う。
伸介もそんな雰囲気を感じ取ったのか、しばらく驚いた表情で固まっていたけれど……そのうちに、はは……と笑みを作った。
「こんなところですることじゃなかったですね。すみません。でも、べつに強引にしてたわけじゃないですよ。合意ですし、なんの問題もありません」
そんな嘘を平気な顔して言った伸介に、課長の視線が私に向く。
肩を抱かれたままの状態で目が合うから……あまりの至近距離に胸が跳ねた。
「本当か? 茅野」
いまだ鋭い眼差しで問われ「あ……いえ」と咄嗟に答える。
それから、伸介に視線を移し……〝話を合わせろ〟とでも言っているような目を見つめながら続けた。
「私は、嫌だって断りました」
ハッキリと告げると、伸介は驚いたあと不機嫌に目元を歪める。
舌打ちでも聞こえてきそうだ。
付き合っているころ、言う事を聞かないとよくこんな顔をされたなぁと思いながら見ていると、課長が言う。