俺様上司と身代わり恋愛!?
やっと出た声が震えていることに戸惑ってから、それが涙のせいだと、追って気づく。
はぁ……と息を吐き出すと、私の様子をおかしく思ったのか、課長が少し距離をとる。
肩をそれぞれ掴まれ、覗き込むように顔を見られた。
涙を拭うと、課長は驚いたような声で言う。
「なに泣いてるんだよ。……そんなに厳しいこと言ったわけじゃないだろ」
戸惑ったような口調に、片手で涙を拭きながらふるふると首を振った。
キツいことを言われたから泣いてるんじゃない。これは……この涙は――。
「違うんです。なんか……課長の言葉が、嬉しくて……」
まだ震える声で言うと、課長は少し間を空けてから「嬉しい?」と聞く。
「はい。だって、私のこと心配してくれてるのが、わかるから」
いつだって、そうだった。
課長の言葉はいつだって、私のためを想ってくれてた。だから、私はずっと嬉しかったんだ。
『事実じゃない事好き勝手言われてるくせに、それを慣れてるからなんて許して笑ってんな』
『もし次何か言われても、仕方ないだとか当然って顔して受け入れて笑ってんなよ』
私が、当たり前のように我慢しようとしたことを、課長はいつだって気付いてくれた。
気付いて、言葉を引き出して聞いてくれた。
それが、嬉しくて……涙が溢れたんだ。
「泣いたりしてすみません」と、まだじわりと浮かぶ涙を拭いながら言い、顔をあげる。
そして、笑顔を向け〝ありがとうございます〟と告げようとした瞬間。
腰を折った課長が、ゆっくりと近づき……唇が触れた。
両肩を掴まれたままされたキスに、目を閉じることも忘れるほど驚き、しばらく呆然としていることしかできなかった。
数秒間、唇を重ねたあと、課長がゆっくりと距離を作る。
そして、そっと肩から手を離した。
駐車場の面積にしては少なすぎる街灯が照らすなか、車道を車が走る音だけが聞こえてくる。
声が出せないまま見ていると、課長も私を見つめる。
真面目な顔だった。