俺様上司と身代わり恋愛!?


課長が連れて行ってくれたのは、和食屋さんだった。

完全個室で他の人の目を気にしなくてすむから、というのが理由で、ああそうかと思った。
ここは、会社から二駅ほどの場所。知っている人と会ってもおかしくない。

社内恋愛は禁止されていないにしても、バレないほうがお互いのためだ。

同じ課なのにヒソヒソされたら仕事がやりづらくて仕方ないし、それに課長は今、笹川専務のお見合い話を受けている最中だ。

ここで噂なんて立てられたら、お見合い相手への態度がいい加減なものだって思われてしまうし、それは避けないとマズい。

……にしても。と部屋を見て思う。

やたら広いし、なんか掛け軸みたいなものまで飾ってあるし、運ばれてきた料理も値が張りそうだ。
課長が私のぶんも頼んでくれたから、値段はわからないけど。

トレーにのっているのは、ごはんと、牛肉のたたきらしきものにタレがかかっているもの、揚げ出し豆腐、ジャコのサラダ、お味噌汁にお新香……と、目移りしてしまうようなお料理だった。

「食え」と言われるまま口に運ぶとどれもおいしくて、運ばれてきたときには多いかな……と思ったのに、完食してしまって自分でも驚いた。

そして、宣言通り私のぶんまで支払いを済ませてくれた課長にお礼を言いながら車に乗り……着いた先は、課長のマンションで。
「少し寄ってけ」という課長の横顔に、戸惑いながら頷いた。

マンションは十一階建てで、課長の住むのは六階の角部屋。

そこにつくまでの間に聞いた話だと、やっぱりひとり暮らしらしい。

共通通路の床は、濃いグレーのタイル。全体的にシックな色合いで高級感が漂う。
エントランスも綺麗できちんとしているから、家賃高そうだなーと思いながら、課長のうしろに続き、部屋に入った。



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