俺様上司と身代わり恋愛!?


今日の課長の格好は、ブラックデニムに白いTシャツを着て、その上に黒いジャケットを羽織っている。

いつも、美絵の身代わりとしてデートしていたときは、一応お見合いの延長線上ということを意識してか、課長はいつもスーツだった。

だから、こういう私服は珍しくてドキドキする。

課長が注文を済ませておいてくれたみたいで、間もなくして店員さんがコーヒーを運んできてくれたから、それを口に運ぼうとすると課長が「あーあ」とため息みたいに言った。

「これでもういい女に誘われてもどうもできなくなった」

実は、課長は笹川専務にお見合い円満破談の話をしたとき、笹川専務から、〝だったら別の子を……〟と紹介されそうになったとかで。

面倒なことになる前にと、〝実は真剣に付き合い始めようと思っている子がいる〟と報告したらしい。

笹川専務にそう告げてしまった以上、遊べない……とそういう意味合いで言ったんだろう。
まぁ、たぶんほとんどはただの冗談なんだろうってわかったから、笑って答える。

「そういえば女好きでしたね。代わる代わる弄んでたんでしたっけ」
「まず、弄んではいないし、恋人がこんなこと言ってんだから、おまえも呑気に笑ってる場合じゃないだろ」

呆れた声で言われ「でも、冗談だってわかってますし」と笑うと、「まったく……」と困ったような顔で笑われた。
課長は、コーヒーのカップを口に運びながら言う。

「もう簡単に代えねーよ。決まった女がいれば見合いとかもう言われないだろうし丁度いい機会だ。煙草も女も、もうやめる」

禁煙宣言をこんな軽くしてしまっていいのかな。だって結構覚悟がいるんじゃ……と思ってから、課長は吸っても一日一、二本だって話をしていたことを思い出す。

吸っている本数が少なければ、そう難しくないのかもしれない。

仕事上の付き合いで必要なら……と思っていたけれど、健康のことを考えれば止めたほうがいいと思う。

だから、〝そうですね〟と言おうとして……ハッとした。
禁煙はいいけど……。



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