俺様上司と身代わり恋愛!?
「私も、女なんですが」
女もやめられちゃったら困る。そう思い言うと、課長はおかしそうに笑った。
「知ってる」
くっくと喉の奥で笑った課長が、手を伸ばし私の髪先を指先でつかむ。
頬に触れる手にドキリと胸を跳ねさせていると、課長が言った。
「女はもう、おまえだけでいい」
笑みを浮かべた瞳に見つめられ……戸惑う。
こんな風に甘やかされるのは、やっぱり慣れない。
愛しいって思われてるのが伝わってくる眼差しも、特別だって教えてくれているような柔らかい表情も、優しい声も。
だから、受け止めきれずに目を伏せようとしたとき。
「付き合うからには結婚前提だからな。おまえも腹くくれ」
課長が言った。
ハッキリとした言葉に、驚いたあと……伏せようとしていた眼差しを持ち上げる。
そして、私をじっと見つめたままの課長と視線を合わせた。
「早乙女美絵あらため、茅野ゆずです。よろしくお願いします」
腹くらい、何度だってくくれる。そういう恋愛を、今まで繰り返してきたんだから。
でも……それもきっと、今回で最後になるし……そうなればいいなとも思うし、そうしたい。
「課長も、覚悟しておいてくださいね。傷つけるようなことしたら、今度は笑って我慢しないで言葉通り咬みつきますから」
自分の気持ちを呑み込んだりしない。
『裏切られんのも、適当に扱われるのも、傷つけられるのも、おまえは本当に慣れてるのかもしれない。でも、おまえがそれを慣れてるからって平気な顔して笑って我慢するのを、俺は見たくない。ずっと、そう思ってきた』
課長がそう言ってくれたから。
真っ直ぐに見つめ返しながら言った言葉の意味に気付いたのか。
課長が目を細めた。
「おまえも覚悟しとけよ。他の男に揺らいだりしたら、おまえの許容範囲超えるくらい甘い言葉吐いてやるから」
私がそれに慣れていないことを悟られていたのか……と思いながら「それは……お互いダメージが大きそうですね」と笑うと、課長も笑う。
「まぁ、末永くよろしく」
どこまでも甘く響く声が心地よくて、思わず顔がゆるんでしまった。
「はい」
END