俺様上司と身代わり恋愛!?
「誰にでもヘラヘラして、八方美人で……いい人ぶって。そういうの、見てるだけでイライラします。
今までだって、私の態度を注意するべきなのにそれはしないで、ただ仕事上の注意だけに留めてるじゃないですか」
大きなため息をわざとらしくついたあと、今野さんが続ける。
「嫌われている相手にまで好かれたいですか? 嫌われないように嫌われないようにって周りに気ばっかり使って、なに言われても笑ってて……悲劇のヒロイン演じてるみたいで、本当、見るに耐えません」
決して、口調が荒くなっただとかではないのに。
気持ちの柔らかい部分を直接突かれたように感じた。
入っていたモチベーションだとか元気だとか……そういうものが、空いた穴からぷしゅうと抜けていく。
ああ、こんなこと前もあったな……と、懐かしい感覚に静かに気持ちが落ち込んでいき、どう返事をしていいのか分からなくなっていた時。
「ごめんね。席外している間、大丈夫だった?」
今野さんのコーチャーを任されている恩田さんが戻ってきた。
預金課のオフィスがただならない雰囲気に陥っている事を知らない恩田さんに、今野さんは「はい」と答えた後。
再び私に視線を向ける。
「茅野さんから教わることはありません」
静かに、私だけに告げられた言葉が、シンとしたオフィスにゆっくりと消えていった。