俺様上司と身代わり恋愛!?
「調べたら、この方、以前同じ印鑑で通帳を一冊作ってるだけなので、共通印鑑にしてもらうように営業の人に言っておこうと思ってたんですけど、いいですか?」
「ああ、融資の方は問題ないよ」
「じゃあ、これ、預金で照合できたら融資の方に回しますね。
営業担当には私から共通印鑑申請の書類一通り渡しておきます」
「ああ。そうしてもらえると助かる」
書庫から出て、課に向かうまでの廊下を歩きながら、ちらっと隣を見上げる。
今まで、志田さんとこんな風に話す事も並んで歩く事もほぼないに等しかった。
私が志田さんを意識していなかったのもあるけど、そもそも融資課とはそこまで仕事上関係があるわけでもない。
意識して話そうとしなければ、こんな風に話したりはできない。
さっきだって、もしも志田さんの方から話しかけてこなければ、「お疲れ様です」って挨拶だけ交わして、すれ違っていただけだったし……と考えて、ハっとする。
狙っていくって決めたのに、今野さんとの事がショックで、その事をすっかり忘れていた。
呑気に印鑑の話してる場合じゃない。狙わなきゃだった!
「あ、あの、志田さんっ」
「ん?」
こういうチャンス逃すから、世で言うダメ男ばっかり周りに溢れちゃうんだ。
そう意気込んで志田さんを呼ぶと、にこりとした優しい笑みが返されて……それを見て、ああこれは人気も出るなーと納得した。
今まで意識して見た事はなかったけれど、言われてみれば顔立ちは甘く整っていて万人受けしそうだし。
いい意味での優男って感じの風貌と醸し出される穏やかな雰囲気は、包容力を感じさせるには十分すぎるし、一緒にいて心地がいいかもしれない。
今まで付き合った人の中に、こんなに穏やかな雰囲気の人っていなかったなぁと思う。