俺様上司と身代わり恋愛!?
五階は、いくつか課が入っているけど元は大きなひとつのフロアのようで、課の間には間仕切り代わりに胸の高さほどの棚やロッカーがデコボコと並んでいる。
そして、課の出入り口にはそれぞれ完全に後付のゲートがついているんだけど……。
本当に何の意味があるのか不明だ。
営業店だったら、強盗が入ってきた時、飛び越えるためにひと手間かからせるとか、お客様のいるフロアとの線引きとか意味があるんだろうなぁと思えるけど。
この階にはお客様はこない。
ドアとか壁を作って、課が閉鎖的になるのを避けたかったのかなぁ。
「多分ですけど。もし忘れ物があっても、私、この高さなら助走つければ飛び越えられます」
「俺なんか助走なしでもいける」
「これ、なんの為なんでしょうね」
「言うな。気にしたら負けだ。俺も毎回この施錠意味あんのかって考えてんだから」
「課長だって考えてるじゃないですか」
笑いながら「負け組ですね」と言いエレベーターまでを歩く。
今日はどこも早帰りだったのか、あまり人の気配を感じなかった。
シンとした通路を歩き、昇ってくるエレベーターの表示板を見ていると「今日も今野はキツかったな」と、楽しげな声が降ってきて、顔をしかめて隣を見上げた。
仮にも上司なんだから、笑っている場合じゃないと思うのに。
どう見ても楽しんで見える横顔を見て、ふぅ、と聞こえるようにため息を落とした。