俺様上司と身代わり恋愛!?
古い顧客の場合、電話番号が登録されていないだとかは少なくない。
住所だって番地が抜けているだとかそういう事だって多い。
本来なら、きちんと欄の埋まった印鑑票をもらい直す必要があるのだけど、そこまで手が回らないのが現状だ。
今も取引のある人だったりすると、新しく印鑑票をもらい直したりもしているけど、電話番号や番地が空欄の印鑑票はまだまだ少なくはない。
もちろん、全体の数から言えば数%ではあるけれど。
印鑑票に書いてなかった場合、どうしようかと考えてはみるものの、田村って名字だけじゃ調べられないし……。
そうなると田村さんから電話がかかってくるのを待つしかない……ってなるけど、その場合、クレーム必須だ。
電話が遅いって内容でかかってくるわけだし、その状態で本人確認なんて手間を踏んだら、田村さんを余計に怒らせてしまう事になるし……だからといって、他に手はないしなぁ。
そんな風に考え、どうか印鑑票に電話番号が書いてありますように、と願っていた時。
外線が入り、それを隣の席の高橋さんが取る。
そして、「少々お待ちください」と少し焦った様子で保留ボタンを押した後、私を見た。
「茅野先輩、田村さんっていう方なんですけど……電話が遅いって、なんか怒ってるみたいで……」
「え、もう? まだ五分くらいしか経ってないのに……」
とりあえず、今野さんの席に回って見ると、さっきの電話の内容がメモに残されていて、聞かれたであろう口座番号の残高を確認できる打ち出しがデスクの上に置いてあった。
それを片手に、高橋さんが保留にしている通話を取ると。
『ちょっとっ! 電話するって言ったのになんでくれないんですか?』
通話を戻した途端そう怒鳴られて、内心うわぁ……とドキドキしながら受話器を持ち直した。