俺様上司と身代わり恋愛!?
結局田村さんに、これでもかってほどに低姿勢になりながら生年月日と名前の漢字を聞き出して、本人確認を済ませた後、通帳残高を告げると、やっぱり納得いかないと怒り出してしまい。
下ろした覚えがない、一体誰が下ろしたんだ、カメラの映像を出してください、あなたが盗んだんじゃないですか。
と、一通り怒鳴られたところで、課長にバトンタッチした。
通帳上の残高と実際の残高が違っていて、そんなハズない、もっとあるハズだと怒るお客様は珍しくない。
課長もまたか……という顔で電話をとり、田村さんの言葉に付き合っていた。
課長には申し訳ないなぁとは思うものの、ただの社員の私が受け答えするのと課長がそうするのとではお客様の心理状態も変わってくるから仕方ない。
課長は「申し訳ないんですが、カメラの映像は探せないんですよ」「いや、カードで下しているのは確実です。五年前の六月十四日に八幡市のATMで……ええ、そうです」と、田村さんをなだめつつも、こちらの意見を通していた。
まぁもうこうなってしまったら任せる他ないと、伝票の精査に戻ろうとして……向かいの席から送られてくる視線に気付く。
見ると、今野さんがバツが悪そうに顔をしかめ、こちらを見ていた。
「大丈夫だよ、もうあとは課長に任せるしかないし」
それだけ言って精査に戻ろうした私を、「なんで注意しないんですか?」という今野さんの声が止める。
「私には注意されたくないって言ってたから……」
「注意されたくないって言われたら注意しないんですか? そんなんでいいんですか?」
てっきり、ミスしちゃった上、その尻拭いを課長にまで回してしまった事に対して落ち込んでいるのかと思ったのに。
急に刃を向けられて、さすがに苦笑いがこぼれる。
静かなオフィス内。
他の社員の耳がこちらに傾けられているのが雰囲気で分かった。