俺様上司と身代わり恋愛!?
「茅野さん?」と声をかけられたのは、水曜日の夜だった。
一応、ノー残業デーである水曜日だけど、だからといって定時に上がれることは珍しい。
決まった仕事をしていればいいだけなら、まだそれも可能かもしれないけれど、事故届の電話対応なんかは時間関係なしにかかってくるし、仕事量だって日によってまちまちだ。
もちろん、電話はいつも繋がる状態ではなく、17時20分を過ぎたら24時間受け付けのサポートセンターに任せている。
夜にサポートセンターが処理した分は、翌朝こちらで処理しなおすという手順を踏んでいるから、退社ギリギリに電話がかかってきてしまうだとか、そんな事はないのだけど。
定時の17時半に会社を出られた奇跡に若干の感動を覚えながら、なんとなくこのまま家に帰るのもなぁと思い寄った本屋さん。
そこで、恥ずかしながら少年向け週刊誌の立ち読みをしていたところを声をかけられた。
しかも振り向けば志田さんが「やっぱり」と、爽やかな笑顔を向けてたりするものだから、余計に恥ずかしくて、持っていた週刊誌を積み上げられていた本のタワーにボスッと戻す。
こんな、少年や青年に混ざって漫画立ち読みしてるところ見られちゃうなんて恥ずかしい……。
そんな恥ずかしさを隠しながら「今帰りですか?」と聞くと、志田さんが頷く。
「今日は珍しく定時で上がれたから、ちょっと本屋でも見て行こうかなと思って。
茅野さんっぽいなぁと思いながら、二、三回後ろウロウロしてたから他から見たら不審者だったかも」
「えっ、すいません……!」
「いや、まさかなーって思ってなかなか声かけられなかっただけだから。
茅野さん、少年漫画とか読むんだ」
「あー……ひとつかふたつだけですけど。私も定時上がりでちょっと覗いてなんとなくなので、毎回見逃さずに読めてるわけじゃなくて」
「なので、読んだところでサッパリでした」と笑うと、志田さんも笑う。