夜の図書室で
 再現してみる? つまりもう一回、自殺した日の自分を思いだしてみたら、と言ったんだぞ。


 ひどい。デリカシーのなさにも程がある。


 先生のデリカシーのなさをあれこれ言えない。


 ああ、僕はいじめを苦に自殺した人を、傷つけてしまった。自分だっていじめられたのに。


 なにやってんだよ。


「それいいね。やってみようか」


「……」


 至極、あっさりとナナちゃんはOKした。


 僕が心の中であれこれ考えたことは、強風が吹いたかのようにふっ飛ばされた。


 自分で言っておいてあれだけど、本当にやるの? だとしたら、かなり辛いはずなのに。


「でも、それってつまり……」


「死んだ日になにを考えていたのか、思いださないとね」


 真剣だった。笑いながら、ナナちゃんの言い方は楽しんでいるように聞こえたけど、たぶん、真剣なのだ。誤解されやすい言い方をする人なんだ。


 ナナちゃんは、僕の机に両腕を=(イコール)のようにそろえて乗せていた。机に視線を落とし、集中しているのか、黙りこんで無表情に変わった。
< 45 / 108 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop