夜の図書室で
「王子様!」


 え? なに、どうした。


 雷に打たれたように、ナナちゃんは眼を見開いたまま、表情が動かなくなった。


 王子様、というのが記憶につながる言葉だったのか? 


 このリアクション、そうなんだろう。


 そうなんだろうけど、王子様? 中二の女子と王子様にいったいなんのつながりが。


「王子様ってなに? あーこれ思いだせない」


 ナナちゃんの声が教室に響いて、消えた。両手の指を神様にお祈りするときみたいに組んで、思いだしたいことが思いだせない気持ち悪さを味わっていた。
< 60 / 108 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop