夜の図書室で
『星の王子さま』を、図書室に返せなかった。それが、そんなささいなことが、心残りになっていたのか。


 ナナちゃんは、まっすぐな眼で僕を見ていた。


「あたしが借りた本を、誰かが隠したんだね」


「……」


 違うよ。そんなことないよ。とは、言えなかった。


 僕が持っている『星の王子さま』を、ナナちゃんは暗い眼で見つめている。


 たぶん、誰かがやった嫌がらせだ。それがこうして、ナナちゃんが亡くなったあとも、継続して傷つけていたのか。


「嫌な気分。これやった人、いまどうしてんのかな。もう卒業しちゃって、幸せに生きてるのかな。死んだあとも、こんなに嫌な気分になるなんて」


 嫌がらせをした人がこの教室に現れることなんてないけど、張本人、出てくればいいのにな、と思った。


 彼女、死んだあともこんなに苦しんでるよ。


 なんで死ぬまで、自殺を考えさせるまでいじめたりしたんだ? 本当に死んじゃったよ?


 口から出せない言葉ばっかりだ。
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