夜の図書室で
 でも、このまま黙っていたくもない。


「これは僕の想像だけど」


 まるで探偵だな。いや、あだ名はつけられたくないけど、


「この原稿用紙は、君が書いたもので、それを『星の王子様』にはさんでいた」


 いまは探偵並みの推理力が必要だ。


「もしかして、人に見られないようにしたかったんじゃないかな?」


 でも、当たっていなくてもいい。話しているうちに、なんとかなるだろう。


「いじめられてたってことは、これを誰かに見られたら、またからかわれるネタにされるかもしれない。君はそれが嫌だった」


 そして、誰かが『星の王子様』を掃除用具入れの裏に隠した。あの原稿用紙といっしょに。


 ナナちゃんは、死ぬ前、本を返していないことを思いだした。でも、もう死ぬからと、本を返しに行かなかった。


「本を返しに行けなかったことが心残りなんじゃなくて、この原稿用紙をはさんだままにしてあるってことが、心残りなんじゃないの?」
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