大人になるのも悪くない
「あ……すいません、急、すぎますよね。誕生日プレゼント、とか」
「え……?」
誕生日プレゼント……って言ったの? いま。
彼がおずおずと引っ込めて行く紙袋の持ち手には、確かにリボンが掛けられているけれど――
「ずっと……気になってたんです。俺、いつも日曜のこの時間に仕事なんで。その……キレイなお姉さんが、一人でいるなって」
それは、人違いなのでは。キレイでもなければ、そろそろお姉さんでもないし、私。
「だから……すいません、最初、この店のカード作ってもらう時に教えてもらった生年月日、勝手に、見て、俺」
照れているのか、とぎれとぎれに一生懸命話す彼を見ていたら、なんだか胸に懐かしいくすぐったさがこみ上げてきた。
それはきっと、もっとスマートに口説き文句を並べられたなら、蘇らなかったもの。
気まずそうに髪に手を差し入れる彼に、思わずふっと笑みがこぼれる。
「それ……中身、なんなの?」
声を掛けた瞬間、パッと彼の瞳が輝いて、無邪気に説明し始める。
「あ、あの! モヒートグラスです! 二個!」
「……二個?」
「す、すいません! 勝手に、一緒に飲む想定で……!」
ああもうなんなの、その慌て方。可愛いなーもう。
やっぱり私、酔ったのかな? モヒート三杯で。
それとも、唯一誕生日を祝ってくれた相手に、しがみつきたいだけ?