大人になるのも悪くない
スッと手を伸ばして、彼の手首をつかむ。
意表を突かれたように丸くなった彼の瞳を覗き込んで、私は呟く。
「ミントの味、するかな」
「……ミント?」
いつも私のためにその爽やかな香りを提供してくれるくせに、私がさっきまで飲んでたもののこと、もう忘れちゃったの?
私は周囲に人がいないことを確認すると、かかとを上げて、少し背の高い彼の唇に、自分のそれを押し当てる。
彼が緊張したように息を止めたのが分かって、私は少し悲しくなった。
もしかして……こういうことを期待したわけではなかった?
段々自信がなくなってきて、唇を離してみると、彼は大きな手で口元を覆って、目を白黒させていた。
「……ミント、っつーか」
そう独り言のように呟いたかと思えば、彼は急に私の手を引いて、ビルの影へと連れて行く。
そして紙袋を地面に置き、私の背中側にある壁にトン、と片手をついたかと思えば、空いている方の手で私のあごを掴んで、グイと引き上げた。
熱っぽい彼の視線が絡んで、身動きが取れなくなったところで、彼の唇が私の耳にささやく。
「ンな爽やかなもんじゃなくて……もっと、酔えそうな味」
その言葉に、さっきモヒートを飲んだ時の感覚が蘇って、くらくらした。
爽やかそうに見えたって、お酒はお酒。
可愛い年下の男の子に見えたって、中身はオオカミ。
四杯目のモヒートを躊躇したときのように、このまま流れに身を任せていいものかとためらってしまう自分が悲しい。