大人になるのも悪くない
「これ……もらっていくね」
忘れられたように地面に置かれたままだった紙袋を手にして、私は自分の中でとびきりの笑顔を作ってみせた。
すると急に難しい顔をした彼が、私の手から乱暴にそれを奪ってしまう。
「……やっぱ、コレあげんのやめる」
怒ったような口調に、補修されかけていた心のヒビが、再び音を立てて刻まれていくのを感じた。
私の反応が可愛くなかったから、きっとつまらないって思われたんだ。
大人の女ぶって、キレイな思い出だけもらおうとした結果がこれだもの。
ホント、救えない砂漠女だ……私。
酔いの回った思考は、ネガティブになることが得意である。
俯いて、これから浴びせられるであろう罵りに備え、下唇に歯を当てた。
そのとき。
「……グラスあげちゃったら、もう来てくれない気がするんだもん」
「え……?」
予想外の言葉が降ってきて、私は間の抜けた声を出す。
瞬きを繰り返しながら顔を上げた先には、少し自信なさげに、探るような表情があって。
「“次”があること、期待してんの俺だけ?」
切実な声色に、胸がきゅうと締め付けられた。
期待、なんて……しないことを当然とするのが、今まで積み上げてきた私のルール。
それを壊そうとするのは、もうやめて。期待の裏側にはいつだって、それを裏切られたときの落胆が潜んでいるんだから――。