恋することを知った恋
小走りで自分の席に向かいながら、振り返った黒瀬先輩が発した言葉。
目が合ったから間違いない。
あたしの言葉、聞こえてたんだ。
「杏里、どうした?」
麻奈美は本当に嬉しそうな顔で、そう言ってあたしをからかった。
「別に」
嫌、本当に嫌。
こんな自分、自分じゃない。
嫌い、男はすぐに裏切るから。
こんなドキドキ、するわけない。
何度も嫌だと繰り返す心とは裏腹に、あたしの頬はいつもより赤色に染まっていた。