恋することを知った恋

そう。

あたしは黒瀬先輩に抱きしめられて。

その優しさと、言葉を伝え切った安心感があたしにまた涙を流させた。

「桐原、俺の話も聞いてくれる?」

黒瀬先輩に抱きしめられたまま、あたしは頷いた。

「…俺は、桐原みたいな子に出会ったのははじめてだったんだ、素っ気なくてサバサバしてるし、なんだかちょっと無愛想な感じがして」

黒瀬先輩の言葉は、あたしの耳元でそっと呟かれる。

波の音は小さくなって、ただ黒瀬先輩の声があたしの身体中を駆け回って。

< 385 / 400 >

この作品をシェア

pagetop