続きは、社長室で。〜相愛ゆえに〜
メルセデスの、あるシリーズを彼はいつも“私のための車“と言うの。
名立たる高級メーカーに大変失礼なことだと思う。それでも、拓海の本音に触れてからは、恐れ多くも特別な一台に変わったの。
真新しい光りを放つボディをまじまじと眺めていたら、隣から楽しそうな声で話しかけられる。
「今日は記念日だからね」と優しく笑う拓海に、ドキリと鼓動は速まるばかり。
……愛おしいヒトは忘れていなかった。——今日は私たちの気持ちが通じた日であることを。
わずかでも秘書を務めていたので彼の多忙ぶりは十分すぎるほど知っている。
それでも、最近は自宅にも帰ることが出来ないほどで、つい寂しさを覚えてしまっていたの。
きっと今日も拓海は帰れないからひとりで静かにお祝いしよう、と思っていたのに。
それなのに、彼は記念日を忘れるどころか、今でも大切に思ってくれていた。
「っ、」
嬉しさと驚きと不甲斐なさで胸が一杯になり、涙腺が緩んでしまう。そんな私の眦を指先でそっと拭ってくれる。
「最近ちょっとトラブルが続いてて、ひとりにさせてごめんな」
「私こそ……っ、」
頭を振って謝らないでと言いたいのに、涙が声を震わせて言葉にならない。伝えたいことはたくさんあるのに、もどかしい。
「蘭の言いたいことくらい分かるよ。どれだけ一緒にいると思う?」