好きだと気づく30センチ
「あ、もしかして怒った?」

 またも私の手を止めるクワガタ。

 なんか無性に腹が立つ。それはきっと、茶髪で寝癖の付き方がクワガタの角みたいだから。

 私はわざとらしくため息をしてから立ち上がり、とびきりの愛想笑いを浮かべて隣を向く。

「さようなら、クワガタ君」

 そのまま鞄を持って教室から出る。

「俺、永田なんだけど」

 後ろで聞こえた呟く声に、今度は心の中で言ってやる。

 『わざとだよ!』

 そんなあいつとの出会い。

 春の浮かれた教室で。
< 3 / 39 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop