好きだと気づく30センチ
「ヒヨコ、どっか痛いのか?腹?頭?熱があるのか?」

 珍しく真剣な顔して考え込むクワガタ。

 私が顔を上げてその表情を見つめていたのに気付くと、二人の目が合う。

 遠くもない、近すぎることもない、この二人の距離。

 初めての場所で、高校生になった不安で、下を向いてた私の顔を上げさせたのはクワガタだ。

 ちょっと変わってるけど、すぐに人を勘違いさせるけど、優しくて面白くて、寝顔が可愛くて。

 初めて会ったあの入学式の日から、クワガタは私の特別なんだ。

「あ、あのね、私……クワガタの事……──」


 春の夕陽、好きだと気づく30センチ。



                * fin *

< 38 / 39 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop