魔王と猫女
夢の始まり
私は何も悪くない、と思う。
信号は青だった。青に変わったのを視野の隅で捉えてから歩き始めた。(私の記憶が正しければ。)
・・・まあ確かに、ボーっとはしていた。少し。
じゃなきゃこの運動神経抜群の私が、あっさりと車にはねられるはずがない。(無論私は悪くないが。)
ガンっとドンっが合わさったような鈍い衝撃が体中に広がった・・・ような気がした。
そう、確かに私は車にはねられたんだ。そして・・・
「どうしてこうなった?」
思わず声が漏れた。
いやだが、呟かずにはいられない。流石の私でもこの状況はなかなか・・・
朝比奈 椿(あさひな つばき)16歳。
頭脳はさておき、運動神経抜群、容姿端麗で人当たりも良く、気配りも出来る完璧な私とはいえ、間違いなく人間だ。運動神経抜群、(以下略)とはいえ、女子高校生だった。絶対。
「・・・・・。」
しかし、今なぜか目の前の湖に映る私の姿は、少しおかしい。
普通、人間には人間の耳が付いている。しかし、今の私にはそれが無く、代わりに猫のような動物の耳が頭上についている。しかもつねると痛い。ちゃんと神経が通っているようだ。
そして本来無いはずのこれまた猫のような長くて茶色いしっぽがお尻の割れ目部分から生えている。こちらも神経が繋がっていることを確認済みだ。
ついでに犬歯は獣のそれのように尖り、手の爪も鋭く伸びている。
「コスプレイヤーかよ・・・」
処理しきれないこの状況に、自然とため息が漏れる。そして
「んで、ここはどこなんだよ一体。」
目の前に広がる、広大な湖。椿はその湖に全く見覚えは無かった。
勿論、どうやってここに来たのかさえ、椿には分からなかった。