魔王と猫女


椿が小学校三年生、優斗が幼稚園年長の時、優斗は重い病気にかかり手術を受けた。


術後、少しずつだが回復していた優斗は、あの日、散歩に出たいといった。


季節は冬に移りつつあるものの、太陽がさんさんと輝き、心地よい天気だった。


しかし、医者から油断は禁物だと言われていたので、椿はノーと答えた。


その日は両親ともに忙しく、椿はちゃんと弟の面倒を見ると約束していたのだ。


そしてその夕方、優斗の容体は急変し、帰らぬ人となった。


なんで、散歩に連れていってやらなかったんだろう。


優斗は、紅葉が大好きだった。椿にはあの頃理解できなかったが、紅葉の葉の形や色の変化に興味をひかれたらしい。


病院の周りの紅葉の葉を拾って持って行ってやると、すごく喜んだ。


そして病院にある池に、紅葉の葉を浮かべることが好きだった。


きっとあの日も、病室に置いてある、椿の集めた紅葉の葉を、池に浮かべたかったのだと思う。


あの日、あの日が最後になると分かっていたら、絶対散歩に連れて行ってやったのに。


優斗のあの、拗ねた表情と、激痛に苦しむ姿が時々フラッシュバックされる。


そしてそのたび、椿は後悔の念に押しつぶされそうになる。


なのに私は、夢の中で結局同じ答えを返している・・・。


頭の中では、この日が優斗の最後の日になること。散歩に連れて行ってやらなければならないと理解しているのに、口は思うように動いてくれない。


そして突然、場面は夕方、優斗に異変が起こった時に切り替わる。


苦しむ優斗。必死でナースコールを押しながら優斗の名を呼ぶが、優斗は聞こえていないのか痛みに悶えるだけである。


そしてすぐ、看護師や医師が駆けつけるが、優斗の体から力が抜け、むなしく響く心電図の音に、私は立ち尽くしすしかなかった。




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