「フィリップ・ホプキンスへの絵手紙」
一限目の文化論の授業が終わって、明日香は、すぐさまスマートフォンの電源を入れた。メリーネ公国がどこなのか、どんな国なのか、どんな人が住んでいるのか、気になって仕方がない。電源を入れたら、登録しているアプリの最新の連絡が振動と共に入ってくる。

『Philip Hopkins sends you a request. 』

「えっ、フィリップさん!? 」

慌てて文章を二度見した。
「え、英語……!! 」
二日連続で苦手な英文を見ると、知恵熱が沸いたみたいにくらくらする。
「そうだ、ベス! ……あ。」
助けを求めようと顔を上げたが、彼女は二限目の選択授業の準備の為に急いで廊下へ出ていった。
明日香は一度落胆したものの、すぐに再起して、もう一度フィリップの文章を見てみた。
" send "は、確か「送る」。" you "は、「あなた」。" a request "は……、「リクエスト」……?

フィリップ・ホプキンスは、あなたにリクエストを送る。

明日香は、すっとを息を飲んだ。
「リクエスト……!」

フィリップは、あまりにものつまらなさに心の内で深い溜め息をついた。微笑の仮面の横で、大きい胸の露出の多い、真っ赤なサテン生地のマーメイド・ドレスを身に纏ったフル メイクの美女が、ワイングラスを片手に転がしながら、色目を使ってきている。
スーツの内ポケットにあるスマートフォンの振動は、未だない。

最上階から見下ろす、煌めくジュエル・ボックスの様な、私利私欲にまみれたマンハッタンの眠らない夜景よりも、心から楽しんで絵を描いたであろう「Asuka」の返信を大変心待ちにしている。
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