「フィリップ・ホプキンスへの絵手紙」
「そうそう! フィリップさんはね、明日香に友達リクエストを送ったの! この文章の前にあるマークが、サイト内での友達の繋がりを表したマークよ! 」
お昼の食堂のテーブルでやっとベスに聞く事ができた。明日香の相談にのりながら、大好物のロコモコ丼を幸せ一杯に頬張っている。
「友達リクエストって事!? まじか……わっ! 」
急に一枚の紙が上から明日香の全視界を覆った。
「明日香、書いた? 進路希望調査書! 」
鞠華は紙を再び持ち上げると端麗な顔で、目が点になった明日香に、愛嬌持ってはにかんだ。そして、和食の定食のプレートを、明日香とベスのテーブルに置いて着席した。
「いただきます!」

鞠華が赤鮭をついばみながら聞いた。
「ベスは美術品とかを扱う貿易会社に行くんだよね?」
「そうそう! お父さんのお友達の会社。小さい頃から、楽しそうな仕事だなって思っていたの! 鞠華は芸術大学に進学よね? 」
ベスが「ごちそうさま! 」と、ロコモコ丼を綺麗に平らげた。
「ええ! もっと深く造形の道を極めたいの。今までの貯金と、パートかアルバイトで学費を稼ぎながらね。身体が資本になるからしっかり食べなきゃね! 」
言って、お漬け物とご飯をぺろりと食べていく。
将来と夢をはっきり描いている二人に明日香は気後れしていた。彼女は未だ自分の進路を決め兼ねている。

(同い年なのに、二人共ちゃんと未来の事を考えているんだなあ……。)

明日香は、ベスと鞠華が自分よりも大変大人らしく見えた。この二人だけではない。クラスメイトは勿論、同学年の学生、中高生からの今も仲の良い親友達、皆それぞれが将来なりたい自分を夢描いて歩んでいるのだ、きっと。

鞠華が明日香に唐突に聞く。
「明日香はどうするの? 夢を追うんでしょ? 」
鞠華に釣られてベスも明日香を見る。明日香は、二人からおどおどとたじろぐ。
「ああ……と、う~ん……、迷ってるわ。」
本当は小さい頃から、花と動物のデザインをゴージャスに、ふんだんに使ったイラストレーターになりたいと夢描いていた。それは、中学生の頃までは純粋に夢を描いて、図書館に行ってはデザインの本を、国語辞典を片手に読みあさっていたけれど。動物園も植物園も、博物館も美術館も、興味を持った行ける場所は、どこでも訪れたけれど。
高校に上がって美術部に入ったまでは良いものの、学年を経て、友達や先輩、後輩、先生などの周りの話を聞きながら自身の進路について向き合う日々が増えていく度に、小さい頃からの夢を「仕事」として実現させ、継続していく難しさを痛感させられた。
「親は、それじゃ食べていけないだろうから、ちゃんとした会社に就職しろって。
叔母さんなんて、公務員か銀行員になったらって、玉の輿も良いとかなんとか……。それこそ、デザインを勉強している意味ないじゃんか。」
言えども、叔母はともかく、親は一般的な正論だとは思う。この正論に太刀打ちできる夢の計画は、未だ明日香の知恵と経験に殆ど備わっていない。
鞠華が明日香を励ました。
「デザイン関係の会社も色々あるじゃない。探すのを諦めなかったら、きっと明日香に本当に合う会社と巡り合うかもよ。」
ベスも身体を前のめりに乗り込んで、明日香を元気よく励ます。
「外国にもデザインの会社、色々あるよ! 」
「ごめん! 外国はまだ覚悟できていない! 」

明日香がアドバイスをベスからもらいながら、何とか頑張ってリクエストの承諾ボタンを押したその夜に、フィリップからの返信とベスからのリクエストが届いた。いつでも対応できるよう、ダウンロードした無料の英和辞典のアプリを開く。

" Hello, Asuka. Thank you so much for adding me. I like your picture. Arigatogozaimasu. "

「???」
今夜も明日香VS英語のゴングが甲高く鳴った。
ベッドの布団の中で、とりあえず英語を音読してみる。
「ハロー、アスカ……、あっ、ハイ! ハロー、フィリップさん! 」
どぎまぎしながら思わず応えて、" adding " と書かれた、見慣れない英単語を英和辞典アプリで検索する。
「ああ! 加えてくれてありがとう、って意味ね! いえいえ、こちらこそリクエストをありがとうございます! 」
明日香は笑顔になった。
なんか、楽しいなあ! フィリップさんも同じように思ってくれていたら嬉しいなあ!
彼に続いて届いたベスのリクエストを承諾してから、一度深呼吸をする。
「よし! 」
お昼休みの低いテンションからハイテンションに戻った明日香は、その夜も布団の中で英文と戦いながら、歓びを与えてくれるスマートフォンの向こう側にいるフィリップに返事をうきうきと書いていた。

広い晴天の下、昼間から賑やかなマンハッタンの港に停泊する歴史ある豪華客船で、長期に渡る映画の撮影がようやく終わった。
「やあ! 何をニマニマしているんだ? 新恋人か? パパラッチが高く売れると騒ぎ出すぞ? 」
「違いますよ、監督。見ますか? 」
彼がスマートフォンをすんなり見せてきたので、ジョーンズ監督は「お!? 」と彼の横から画面を覗き込んだ。
「へえ! 良い絵だなあ! グレイスが描いたのか? 」
そこには、パッションカラーで百花繚乱に、かつ上品さもバランスよく兼ね備えた、見ているだけで心が晴れるような素晴らしい花々の絵であった。
「そうそう! フィリップさんはね、明日香に友達リクエストを送ったの! この文章の前にあるマークが、サイト内での友達の繋がりを表したマークよ! 」
お昼の食堂のテーブルでやっとベスに聞く事ができた。明日香の相談にのりながら、大好物のロコモコ丼を幸せ一杯に頬張っている。
「友達リクエストって事!? まじか……わっ! 」
急に一枚の紙が上から明日香の全視界を覆った。
「明日香、書いた? 進路希望調査書! 」
鞠華は紙を再び持ち上げると端麗な顔で、目が点になった明日香に、愛嬌持ってはにかんだ。そして、和食の定食のプレートを、明日香とベスのテーブルに置いて着席した。
「いただきます!」

鞠華が赤鮭をついばみながら聞いた。
「ベスは美術品とかを扱う貿易会社に行くんだよね?」
「そうそう! お父さんのお友達の会社。小さい頃から、楽しそうな仕事だなって思っていたの! 鞠華は芸術大学に進学よね? 」
ベスが「ごちそうさま! 」と、ロコモコ丼を綺麗に平らげた。
「ええ! もっと深く造形の道を極めたいの。今までの貯金と、パートかアルバイトで学費を稼ぎながらね。身体が資本になるからしっかり食べなきゃね! 」
言って、お漬け物とご飯をぺろりと食べていく。
将来と夢をはっきり描いている二人に明日香は気後れしていた。彼女は未だ自分の進路を決め兼ねている。

(同い年なのに、二人共ちゃんと未来の事を考えているんだなあ……。)

明日香は、ベスと鞠華が自分よりも大変大人らしく見えた。この二人だけではない。クラスメイトは勿論、同学年の学生、中高生からの今も仲の良い親友達、皆それぞれが将来なりたい自分を夢描いて歩んでいるのだ、きっと。

鞠華が明日香に唐突に聞く。
「明日香はどうするの? 夢を追うんでしょ? 」
鞠華に釣られてベスも明日香を見る。明日香は、二人からおどおどとたじろぐ。
「ああ……と、う~ん……、迷ってるわ。」
本当は小さい頃から、花と動物のデザインをゴージャスに、ふんだんに使ったイラストレーターになりたいと夢描いていた。それは、中学生の頃までは純粋に夢を描いて、図書館に行ってはデザインの本を、国語辞典を片手に読みあさっていたけれど。動物園も植物園も、博物館も美術館も、興味を持った行ける場所は、どこでも訪れたけれど。
高校に上がって美術部に入ったまでは良いものの、学年を経て、友達や先輩、後輩、先生などの周りの話を聞きながら自身の進路について向き合う日々が増えていく度に、小さい頃からの夢を「仕事」として実現させ、継続していく難しさを痛感させられた。
「親は、それじゃ食べていけないだろうから、ちゃんとした会社に就職しろって。
叔母さんなんて、公務員か銀行員になったらって、玉の輿も良いとかなんとか……。それこそ、デザインを勉強している意味ないじゃんか。」
言えども、叔母はともかく、親は一般的な正論だとは思う。この正論に太刀打ちできる夢の計画は、未だ明日香の知恵と経験に殆ど備わっていない。
鞠華が明日香を励ました。
「デザイン関係の会社も色々あるじゃない。探すのを諦めなかったら、きっと明日香に本当に合う会社と巡り合うかもよ。」
ベスも身体を前のめりに乗り込んで、明日香を元気よく励ます。
「外国にもデザインの会社、色々あるよ! 」
「ごめん! 外国はまだ覚悟できていない! 」

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