追いかけっこが、終わるまで。
バーベキュー場に到着すると、設置や火起こしはあらかた終わっていて、私達は速人くん達のお客さんとして職場の方々に歓待された。

長谷川先輩は、少し離れたテーブルで30代らしき男性達の中にいた。できるだけ長く気づかれないといいと思いつつ、先輩を見つけてつい嬉しくも思ってしまって困る。

ファンの習性ってやつだ。



若者から子連れまで、幅広い年代の大集団。友達や恋人も1人ずつ同伴できるそうで。

和気あいあいとしつつオープンな職場の雰囲気が伝わってくる。 いいな、こういうの。



速人くんと佐々木くんと4人でしばらく話していて、気を抜いていたところに横から話しかけられた。

「今日は飲んでないの?」

「あ、はい。まだ。あの、こんにちは」

「飲み物取りにいくから、ちょっとついてきて」

有無を言わせぬ口調で言って、そのまま歩き始めた先輩の後ろをついていく。



記憶にあるより背が高い。170台後半かな。今日の私はペタンコ靴だから、見上げる感じになる。やっぱり姿勢がいいな。だからどこにいても目立つのかな。

怒ってるんだよね。何を言えばいいんだろう。




思いつかないまま、クーラーボックスを並べた一角についた。

「ビールでいい?甘いのもあるけど」

「ビールがいいです。できるだけ苦そうなのがあれば、ぜひ」

とっさに答えたら、意外にも親しげな笑顔が返ってきた。目が笑ってる。

「酒飲みの味覚だな。苦めのビールね。お酒弱いんじゃないの?」

「強くはないけど弱くもない感じです。…あの、こないだは、勝手に帰ってすみませんでした」

不機嫌でないのを見て、謝る勇気が出せた。



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