追いかけっこが、終わるまで。
秋の太陽は、あっという間に沈んだ。
やたらに嬉しそうに見送る美和たちに別れを告げて、駐車場まで2人で歩いていく。
楽しめたか、ちゃんと食べたか、確認してくれる。私がビクビクしてるのをわかって、気を遣ってくれてるんだ。
速人くんの車の運転席に座った先輩は、慣れた様子でマニュアル車を発進させた。
「よく借りるんですか?」
「また敬語?」
横目で睨まれた。でも薄く笑ってる機嫌のいい顔だ。
マニュアルシフトを左手が軽快に操作する。運転が好きなんだな。思わず私も笑顔になる。
「滅多にないけど、いまは緊急事態」
先輩は前を向いたまま、ボソッと答えてくれた。
緊急事態。そうなの?私との話が?
でもきっと、お店では話しにくい話題なんだろうとか、対面より横の位置の方が私が話しやすいだろうとか、わかってての優しさなんだ。ワガママなのに優しいんだよね、知ってたけど。
困ったなあ、もう泣きそうだ。
予想どおり、先輩の運転は軽やかだった。
スーッと発進し、ちょっとした車の切れ目でさっと車線変更する。目の前に右折に戸惑う対向車がいれば、パッシングライトを光らせて先に曲がらせてあげる。
楽しげな運転だな、かっこいいなとぼんやりとしばらく前を見ていた。
「で?」
一言だけで、本題に入るように促される。
そうだ、そのために車に乗せてもらったんだから、ドライブを楽しんでる場合じゃない。
「 あの。言いにくい話なんです…なんだけど。」
この後に及んでまだ言葉をにごす私に、先輩は、ため息をついた。
「事情があるのかなとも思うし、女の子に無理矢理喋らせるのはどうかと、自分でも思うんだけど。気になるんだよ、どうしても」
「俺ね、結構すぐ目を覚ましたんだよね。責めたくはないけど、まあ、驚いたよ」
「前にも後輩の子に、1回だけ抱いて欲しいって言われたことあってさ。よく意味わかんないんだけど、それ。そういうこと?」
先輩が前を見つめたまま、眼を細める。
そうだった、せっかちなんだこの人は。
疑問を解消しないと気が済まなくて、部員に詰め寄ってるところを見たことがある。無邪気に、かつ威圧的に。
よし、覚悟を決めよう。逃げられない。