追いかけっこが、終わるまで。
恥ずかしくてその場から消えたくなって、自分の気持ちにばかり気を取られていた私は、車がいつの間にか道路を離れて停車したことに気づかなかった。



左手でギアを戻した先輩が、その手を私の右肩の上について、こっちを向いた。

「また逃げたいと思ってる?」

顔をあげて首を振ると、先輩の目が私の目を捕まえた。

怒ってるような、甘えてるような、不思議な表情。

こんな顔もするんだなって他人事みたいに思った時には、もう顔が近づいてキスされていた。

ついばむような軽やかなキスで何度か唇をつまんだあと、そっと離れる。




「逃げないで」

強い眼差しと目が合って、掠れた小さな声で囁やかれる。

目でうなずいて、またキスを受け入れた。

だんだん深くなるキスに、気づいたら応えていて、次に気づいたら胸に抱きしめられていた。




「新しい恋なら、俺とすればいいじゃん」

耳元で呟くように、拗ねた子どもみたいな声が聞こえた。
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