追いかけっこが、終わるまで。
ぼんやり思い出に浸っていると、奥から美和に話しかけられていた。

「リサ?聞いてる?」

「ごめん、聞こえてなかった。何?」

「江戸文化博物館行ったでしょ?こないだ。速人の会社が関わった案件なんだって。」

江戸文化博物館はリニューアルしたてで面白くなった博物館。通訳アテンドの下見と本番で2回続けて行ったばかりだ。

美和と一緒に2組のお客様を観光案内して、自分達でもやたらに楽しんでしまった。



「関わったって、リニューアルに?」

「そう。一部だけどね。空間デザインって、わかる?」

速人くんが、素人にもわかるようにと噛み砕いて話し始める。

デジタル化で双方向性を出した一連の展示物があって、それをデザインしたのが彼らの会社らしい。同期だという3人は、私たちに一通り仕事の説明もしてくれた。

私は、博物館中央の吹き抜けにあった巨大やぐらが特に好きだと言った。

迫力ある展示で、デジタルのしかけも凝らされていて、担当したお客様と2人でいろんな角度から見上げて楽しんだって。

あんなに楽しんで、お給料ももらえるなんてほんとにいい仕事だと思う。

大変なことももちろんあるけど、私はこの仕事が好き。




「3人とも若いのに通訳なんてすごいね」

「と言っても本職じゃなくて、プロの方たちの取りまとめがメインだからね」

「俺たちもデザイナーじゃないから似たようなものかな。企画側というか」

「結構、どこまで自分たちでやるべきか悩んだりしない?」

「あるねえ」

そんな会話で、親近感が沸いて盛り上がっている。



そのあとは私たちの通訳アテンドの失敗談や困ったお客さんの話を語って笑いを取ったりして、合コンと言っても、誰が誰を狙っているなんて雰囲気にならずにほっとした。

そういう目的なんだからしかたないけど、何度か経験してもやっぱり苦手だ、ああいうノリは。

いつも誘ってくれる美和には悪いけど。




目の前の先輩と、どう話したらいいものかよくわからないのが困ったけど。

隣に座った佐々木くんが勧めてくれたワインを飲みながら、6人で話すのを楽しんだ。
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