追いかけっこが、終わるまで。
いつのまにかドアの向こうから聞こえていたシャワーの音が止まった。

結構すぐにガチャリと音がして、濡れた髪にタオルを被った先輩が顔を出す。Vネックの白いTシャツに洗いざらしのジーンズのさっぱりした普段着。

そんな姿もかっこいいなあと、またファン目線で現実逃避しかけたところで声をかけられた。



「車で送るから、シャワー浴びといで」

さっきの木島さんの剣幕が聞こえてたのか。

慌ててバッグを抱き上げ、洗面所を借りる。タオルとドライヤーが用意されていた。 シャワーを頭から浴びてさっぱりして身支度を整える。



部屋に戻ると、先輩は立ったままコーヒーを飲みながらテレビをつけていた。

「コーヒー飲む?腹減ったよね。でも急いでる?」

「お昼頃までに出社すれば大丈夫。お腹は、空いてるけど」

敬語を使わないように、気を付けて返事をする。

タイミングよくお腹がぎゅるーとなって、先輩が吹きだした。



「車でリサの家寄って準備したら、途中で軽く食べて、仕事場まで送るのでいい?」

うわ、そんなにしてもらっていいの?正直すごく助かる!でも甘えちゃっていいの?と考えてたら、全部顔に出ていたらしく、また笑われた。



「逃げなかったご褒美だと思えばいいよ。行こう」

ご褒美?

さっさと玄関に行ってしまった先輩を追いかけて、慌てて靴を履く。



そういえば今、リサちゃんじゃなくて、リサって呼ばれたよね。

リサだって。なんか恥ずかしい。それどころじゃないけど今。
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