追いかけっこが、終わるまで。
車内で、頼まれた仕事のことを聞かれるままに話した。

今日とこれから1週間の仕事を整理しながら、どんな業務なのか、何に気をつけなくちゃいけないのか、質問してくれるのに答えて私ばっかり喋ってしまった。

おかげで気持ちが落ち着いてきた。



カフェについて、注文を終えたとき、彼が寛いだ姿勢で足を組みながら言った。

「仕事、好きそうだね」

初めて会った時も言われた気がする。

「はい。人のお世話とか気を遣うのとか苦手だけど、周りを見ながら覚えて、だんだんできるようになって嬉しいの」

「苦手なんだ?大変じゃない?」

「うーん、元々得意な人が多い職場だから凹むことが多いかな、正直。でも、わざわざ日本まで来てくれた人達に会えて、話を聞いたり一緒に遊んだりするのも仕事なんて、普通ないと思うから。恵まれてるなって」

「へぇ」

光輝くんは、ちょっと目線をそらしながら、笑いをこらえるような嬉しそうな変な相槌を打った。



すごいねとか、頑張ってるねとか、さすがだねとか。

そう言われることが多くて、言われた時の返しはもうほとんど癖のようになっている。

自慢と謙遜の間になるように、上手に。

でも予想外の反応が返ってくると、ちょっと困る。

へぇってなんだろう。



「なにか言いたいことがあるならどうぞ」

うろたえたことに気づかれないように願いつつ、直球で切り込んでみる。おかしなこと言ったのかな。



「いや?俺も仕事好きって言われるけどね、休日に呼び出されたら面倒だなって気持ちが先に来るからさ、さすがに。よっぽどだろ、そんな楽しそうなの。

俺からうまく逃げられるのが嬉しいのかなと、ちょっと思ってたんだけどね。そうでもなさそうかな」

言われて顔が赤くなって、目を逸らした。



なんかもう、完全にからかわれてる。逃げる気なんてとっくになくなってるって、きっとばれてる。
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