追いかけっこが、終わるまで。

気づくと、自分の部屋のベッドに寝ていた。もちろん1人だ。




部屋着に着替えているし、あれから自力で帰ってきたんだった?よく思い出せない。

起き上がって玄関の鍵を一応確認すると、閉まってる。いつも通りチェーンもきっちりかけてあり、これは間違いなく1人で部屋に帰って来たってことだ。

歩いて駅まで行って、それからどうした?電車に乗ったよね。その後タクシーにも乗ったような。寝ちゃったのかも。なんか変なこと、言ったりしちゃったかな。

前に一度深酒した時、延々と別れた春樹への謝罪の言葉を聞かされたと美和に言われたことがある。そんなたちの悪い酔い方、してないよね。




携帯を確認しようと通勤バッグを探して、固まる。

え?バッグがない?

あんなに大きなものがこの狭い部屋で見つからないはずはなく、血の気が引く。

個人のものも顧客関係の書類の整理も、色々入ってるんじゃないの、あれ。やっぱりせめてオフィスに寄って仕事の書類を片付けてくるべきだった。




改めて部屋をざっと見直して気づく。携帯が枕の下からはみ出している。震える手で取り出してメッセージをチェックする。

【バッグ預かってる。起きたら電話して。】

光輝くんからだった。

よかったあ。しゃがみこんで安堵する。

< 28 / 62 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop