追いかけっこが、終わるまで。
シャワーを浴びて着替え、休日仕様の軽いメイクをして心を落ち着け、電話をかけることにした。

「おはよ」

優しい声が聞こえた。

「大丈夫?」

この数週間で、何度もこの言葉をやり取りしている気がする。

「あの、バッグ…」

言葉が続かない。だって、全然覚えてないってばれてる?そんなに酔っ払ってた、昨日?

「覚えてないんだろ。相当ヘロヘロだったから。いろんなこと喋ってたしな」

からかわれてるんだろうか。でも、分が悪い。何も言い返せない。

「酔ってたけどね、楽しそうだったよ」

黙っていたら少し慌てた声が聞こえた。

「家まで送って、リサだけ部屋に入れてからドアの外にバッグが置いたままなのに気づいてさ。チャイムも鳴らしたし電話もしたんだけど、出ないし。置いとくわけにもいかないから持って帰って来ただけ。疲れてそうだったから、あのまますぐ寝ちゃったんだろ」

「ごめんなさい」

「いや。それに関しては、俺に責任があるから。謝るならこっちっていうか」

光輝くんが言葉をにごす。

とりあえず届けるから、部屋に上がる気ないから気にしないで、と言って通話が切られた。



美和みたい。勝手に決めて、勝手に切る。自分のペースで進めるけど、常に優しい。

好きだなあ、と声に出してみる。遠くで見ていた長谷川先輩じゃなくて、光輝くんが好きなんだと思った。



好意を持たれてることは、わかってる。でも、それがどこまでかってことがわからない。踏み込んだら、逆に逃げられるような気がするのは、考えすぎなんだろうか。

好きとは言われてない。付き合おうとも言われた記憶がない。身体の関係が先にある。

これが大人の恋なのか、それとも遊びの延長なのか、私はどうしてわからないんだろう。もう23なのに。

空気を読めずに失敗してばかりだった高校生のまま大人になれてない気がするのは、何故なんだろう。
< 29 / 62 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop