追いかけっこが、終わるまで。
気づくと日付が変わりそうな時刻になっていた。
お店の外に出て歩き出したとき、隣にいたのは長谷川先輩だった。
いつの間にか前の4人と離れてしまっても、私の遅いペースに合わせて歩いてくれる。
「ほとんど食ってなかったね」
「前の案件でも少し食べてきたから」
「仕事だったんだっけ。楽しそうにやってるよね」
「はい。好きなんです、すごく」
お酒を飲んだせいか、先輩とも気楽に話ができた。この幸運に軽く舞い上がっていて、ちょっとしたことに笑いながら歩く。
あとで元ファンクラブのみんなに自慢しないとなあ。この際、先輩にも弓道部の後輩ですって言っちゃおうかな。でも恥ずかしいな。ファンだっていうのもばれちゃうよね。
ふわふわと考えながら歩き続けていたら少し酔いが回ってきて、ふらっと地面が揺れたのが自分でもわかった。
肩を支えられて、先輩が声をかけてくれる。
「大丈夫?ちょっと休んでく?」
本気で心配してくれる声色だけど、経験の乏しい私でも、それがどういう誘いかはわかる。
やっぱりこういうことに慣れてるんだという少しの失望と、一方でこれはチャンスかもという期待。
春樹と別れて以来、ずっと頭にある不安と向き合うチャンス。
たぶん、2度とはないチャンス。
あんなに憧れていた長谷川先輩だったら。
気持ちよく酔ってよく回らない頭で、それ以上考えるのはやめにして、先輩に誘われるままに、ついていった。