追いかけっこが、終わるまで。
「俺ね、思い出したよ。うめことよねこっていう1年いたよ、確かに。顔とか覚えてないけど、本名だって誰かが言ってて、かわいそうだなってちょっと思ってた。俺も自分の名前好きじゃなかったからさ」
そんな話か。
そう、1年の時、梅沢という苗字をとって、しばらく梅子と呼ばれていた。
でもかわいそうってことなかったんだけど。
「私は。うめこってあだ名は、お気に入りだったんだけど」
「うん。そう言ってた、昨日。よねこの方からコンビ解消されたんだって。リサと香、なんだろほんとは。かわいい名前なのに」
「リサって名前は、好きじゃなかったの」
「へえ?」
「なんでカタカナ?ってよく聞かれて。”リサとガスパール”というキャラクターのウサギのリサです。母のフランスの好きが高じてつけました、なんて言いにくくて。帰国子女だし、漢字書けないの?って思われそうで。
うめこって、高校入って誰かが呼び始めてね、日本ぽくていいなと気に入ってたのに、そう言う感覚が日本人じゃないって香にダメ出しされちゃって。だいたいそんなあだ名なめられてるんだよ、ってお説教されてリサにもどされちゃったの」
「何度聞いても面白いな、それ」
「聞いたの?」
「昨日ね。力説してたよ、うめこについて」
頭が痛い。元彼の話をするよりはずっといいけど、高校時代のあだ名について語るってなんなの。
イタイよ、ばかみたいだよ。
「後は、ファンクラブって実在してたんだって初めて知った」
「え」
「三ヶ条?とかなんとか色々楽しそうに教えてくれたけど。俺のファンっていうか、そのクラブ自体が楽しいってそんな感じだったんでしょ」
そう結論付けたらしい。楽しかったのは、先輩を見てたからなんだけどな。
きっと本人にとっては気持ちの良いものでもないんだろう、影で追い回されるのは。私にも覚えがある。
「…ずっと、そんな話?」
「言ったらまずい話とか、なんかあるんだ?」
質問に質問で返すのは反則、と言って睨んだ。
「ずっとそんなだったよ、楽しそうに高校の時の話してた。ほんと、何度会っても面白いよなリサは」
面白い、か。褒めてるけど、女の子への褒め言葉じゃないよね。
色物的な?暇つぶしにいじって面白いから、会いに来てくれるのかな。
はあ、なんか落ち込んできた。
思わずため息をついた時、目指すカフェの看板が見えてきた。