追いかけっこが、終わるまで。
ちょっと座り直して、今度は落ち着いて話す。

「それはないの。でも、私のほうは知ってたの、実は。高校のとき憧れてた先輩だったの。

光輝くんにもバーベキューのとき話したけど、すっごく驚いてた。知り合いじゃなくて、私が遠くから憧れてただけ」

また驚いてる美和が、それでも黙って耳を傾けてくれてるから、勢いでそのまま話す。

「憧れの先輩と、1回だけしたら、吹っ切れる気がしたの。春樹のこといつまでも考えてても仕方ないし。帰りに酔ってふらふらしてたら、先輩に誘われたから、ついてっちゃったの」

だから、もう1回会うとか想定外だし、そもそもあんな風に誘った子にそんなにこだわるなんて、なんなのかよくわからない。

リサはかわいいからね、一目惚れってことかもしれないよ、と慰めるように美和は言う。



だったら、もちろん嬉しいけど。

初めて会ったとき、目が合ったけど。

でも、それだけで?そんなことってないと思う。



「まあでも、2人で話しててもらちがあかないね。

とにかくね、光輝くんはリサを相当好きよ。土曜に見ててもそう思った。そこは自信持っていいし、信じてあげなよ。ちょっと解せないところはあるけどね、そこは速人をつるし上げとくから、任せといて」

いや、あの、つるし上げなくていいから。

美和に洗いざらい話しちゃっただけでも相当恥ずかしいのに、速人くんになんか知られたくない。



「安心して、速人には何も話さないから」

相変わらずの勘のよさで、何も言わなくても美和には伝わったらしい。

甘やかされてるなぁ、私。

こんなに友達に何もかも話して相談って、学生じゃあるまいし。



美和は自分と速人くんとのことを、何にも言わないのに。

私を信用していないわけではなく、大人なんだ。自分のことは自分で考えられる。

私はいつになったら大人になるんだろう。
< 37 / 62 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop