追いかけっこが、終わるまで。
あのさ、と言いかけて、光輝くんの言葉が止まる。

飲み物をテーブルに置いて私の手を引いて立たせると、ちょっとこっち、とベッド脇のクッションに並んで座らせた。



「美和ちゃんがさ、リサのこと前から知ってたんだろって言ってきて。女って怖えって速人と固まったんだけど」

前を向いたままで、話が始まった。やっぱり美和が吊るし上げたんだ。



「黙ってたけど、その通りで」

予想しなかった流れに、驚いて彼の顔をまじまじと見ると、一度こちらを横目で見て、気まずそうにまた目をそらされた。



「通訳で行っただろ、江戸博」

江戸文化博物館には2回行っている。その話、最初に会った時にもしたの、覚えてる。




「速人が、友達が観光通訳でいくからこっそり見に行こうって言ってきて。俺も関わった展示だから、まあ興味があったわけ。

吹き抜けがあって上の階から見渡せるんだよ、中央あたりは。

外国人連れてどんな反応するのかなって見てたんだよね、2人で」

あの時?見てたの?



「速人の友達の子ともう1人若い子がいてね。その子がどう見ても自分が楽しんでるんだよ。お客さんが見てるところに声かけて、自分の方に引っ張っていったりしてやたら楽しそうにしてるんだよね。

もう1人の子が、きっちりお客のサポートに徹してるのと対照的で、いいのかよそれでって、面白くって」

そうだ、面白いって何度か言われた。

あれが?仕事してるのが、面白そうだったってこと?



「こっちも楽しくなって、つけていったんだ。博物館内を廻って、タクシーに乗るところまで結構長く。

気づかれないようにさり気なくね。

で、速人にあの子紹介しろって頼んだの」

あの子って、私のことだよね。ほんとに?

< 45 / 62 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop