追いかけっこが、終わるまで。
月曜の朝、自席に座るやいなや、木島さんに謝られた。
「金曜ごめんね、リサちゃん。遅くなっちゃったよね?」
「大丈夫です、無事合流できたし美和にも怒られませんでした。あの方相当酔ってましたけど、木島さんこそ大変だったんじゃないですか?」
木島さんが担当したお客様のご希望で、金曜は私もディナーに呼ばれていた。
元は翻訳業から始まったこの会社には、アテンド通訳の仕事もかなり発生する。会議や講演のために来日したお客様いわゆるお付の人として動く。3日から1週間程度、ランチや移動、観光等こまごましたことに付き添う役割だ。
専門の通訳さんを頼むことがほとんどで、私たちコーディネーターは様々な予約やスケジュール管理が主な仕事だけど、観光等にサポートに入ることもよくある。
私は欧州からのお客様の相手役として駆り出される頻度が高い。仏文科出身だけに文化もわかるし話もできるでしょ、というわけだ。
「あの方ほんとにリサちゃんのこと気に入っちゃってね。南仏に来た際には家族で観光案内するからと言ってたよ」
「光栄です。連絡先教えていただいたので、ご自宅にカード送っておきますね」
こういう細かいやり取りで気に入っていただき、次回もうちでとなるらしい。
私は気が利くタイプじゃないから、どうやって気を遣ったらいいのか、いつも木島さんを見て勉強させてもらっている。
あんなふうに、周りが見えて気遣えて、誰からも頼られる人になりたいな。
でも美和は、無理だろうって言う。私は自分の勘で動いてうまくいくタイプだって。
頼られるよりは愛されるキャラじゃない?うらやましいわ、と吐き捨てるように言われた。
「うらやましいなら、代わってほしいよ」
睨んでみる。
美和はしっかりもので頼られるタイプだ。私こそうらやましい。
「ね、そういう風に怒ってみせても、いちいちかわいいから、得だよねえ。私が同じ口調だったら、怖いだけだよ?」
怒ってもかわいい、か。
長谷川先輩みたいだなぁ、とぼんやり考えた。