追いかけっこが、終わるまで。
私はお店に1人で入れるほうだけど、人と一緒のごはんはやっぱり嬉しい。

水曜は、美和が休憩時間が一緒に取れると誘ってくれて、近くの和食屋さんに2人で行った。



「速人に聞いたんだけど、光輝くんあれから機嫌悪いらしいのよ。でね、リサには逃げられたって言ってるって。タクシーで帰ったけど連絡先聞かれなかったって言ってたよね?ほんとは断ったの?」

「え?そんなことないよ。ほんとに聞かれてないから。機嫌が悪いのは私とは関係ないんじゃない?」

とぼけながらも、冷や汗が出る。

嘘はついてないよね、私。

「そうなの?リサって固いからなぁ。かっこいい人だからチャンスかと思ったのに」



あの後タクシーに乗って帰ったし、先輩に連絡先を聞かれたりは本当にしていない。

一人で帰ったことも、直接タクシーに乗りに行ったわけじゃないことも、確かにあえて言ってないけど。

勢いでついていっちゃったから、その後のこと何にも考えてなかった。



美和は詳しいことは聞いてなさそうで、それ以上は追及してこなくてほっとする。

合コンは何度か企画してくれたけど、その後は連絡先を聞いた本人たちでどうぞという感じだったから、この先また先輩に会うこともないはず。





でも、逃げられたってなんだろう。私、逃げたのあれ?

さりげなく帰るってやっぱり駄目だった?

長谷川先輩の気分を損ねたらしい。よく考えたら確かに失礼なのかも。

でも今更どうにもできないし。謝るチャンスもないだろうし。



あーあ。

なんだか青春の思い出を自分で塗りつぶしてしまったような、後悔の気持ちが襲ってきた。



まただ。

時々直感でぱっと行動した後、誰かに指摘されてそれではだめだったらしいことに気づく。そしてそのまま、動けなくなる。

悩んだって過去は変わらず、そして結局やった後悔が長続きしたこともないんだけど。やらなかった後悔、言わなかった後悔のほうがずっと引きずる、そう言ったのは誰だったかな。




ごめんなさい、先輩。

不愉快な女の子のことはすぐに忘れて、またあの笑顔で笑っていてください。

私は、忘れず大事にしていくけど。




一人でぐるぐる考えている私の気持ちに気づかずに、美和が明るく言う。

「リサかわいいもん。気に入られたんだよ。でも女慣れしてそうな人だったけどね、連絡先も聞けずに逃げられちゃうとか、それで不機嫌とか、ちょっとかわいいよね」



そう。不機嫌でもかわいい。

それが私たちの長谷川先輩だ。


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