追いかけっこが、終わるまで。
こっちー!と美和の声が聞こえたのは、待ち合わせの駅の改札側ではなく、駅前ロータリー側だった。
振り向くと、黒い車の助手席から美和が手を振る。車で来てるんだ。
走り屋っぽい車だな、こういうお友達だったかな?と思い出しながら覗くと、運転席から手を振ってくれたのは、なぜか先週会ったばかりの速人くんだった。
美和に嵌められたと気付いて、固まる。
後ろに乗るよう促され、恐る恐るドアを開けると、後部座席には誰もいなくてほっとした。
「こないだ光輝が迷惑かけた?ごめんね?」
速人くんがバックミラー越しに謝ってくれる。
「そんなことないです!全然!」
おかしいくらい慌てて言った。挙動不審だ。何かありましたと言ってるようなものだよね。
どういうことなんだろう。何も知らない美和がうっかり私をまた連れてきちゃったっていうこと?
それとも迷惑をかけた私が、あえて呼び出されたの?
「リサちゃん、こないだも言ったけどタメ口でいいからね、美和の同期なんだから、俺とも友達になってよ」
速人くんは落ち着いていて、包容力のありそうな人。友達と言ってるけど元彼なのかな。高校時代の彼氏の話を美和から聞いたことがあるけど、まんまこの人だもん。
二人がなぜかそれを隠しているということは、微妙な関係にあるのかもね、今。
「光輝くんがね、リサにもう一度会いたいんだって。聞きたいことがあるみたいよ?」
美和が含み笑いをしながら言う。
やっぱり、そういうことなんだ。
勘違いしてる、この二人。
話って言うのは、あのまま帰ったことに対する苦情でしょう。
不機嫌な先輩に何か聞かれるなんて怖い。聞かれるっていうか怒られるんじゃないの?
このままなんとか逃げかえれないかな。もう会わないはずだったのに。
でも、前の二人の楽しそうな様子ではとても言い出せなくて、しかたなく窓の外を眺めた。