さいごの夢まで、よろこんで。
一つも、無駄な思い出なんてない。


友達は少ないけど、一丁前に苦手な人がいるのだ。

「おはようございます」
「お、おはよう赤城くん…」

映画館に行く約束の日。
準備を済ませて、すぐ近くの翔太の家まで迎えに行くと、先客がいた。
赤城くんも中学生からの同級生で、翔太とは仲がいい。私とは同じクラスになったこともなく、あんまり話したことがなかった。だけど、まったく話さないわけにはいかない、という奇妙な関係なのである。

「悪い、沙耶ちょっと待ってろ」
「あ、ううん気にしないで」

翔太と赤城くんは、二人で翔太の部屋に入っていった。なにか用事があるらしい。
一人リビングに残った私は、そのとき初めて、無意識に息を止めていたことを知った。

赤城くんは、私が通う病院の、院長先生の息子さんだ。
私は、自分がそこに通っていることを赤城くんに言うつもりはなかったのだけど、中学生のときに赤城くんのほうから話しかけてきたのだ。
どうやら、学校でなにかあったときのために、私のことを気にかけてくれていたのだとか。つまりそれは、病気のことも知ってるということ。

とてもありがたいことだけど、翔太にバラされないかとヒヤヒヤするのも事実。
なにより、赤城くんに見られると、どうも緊張してしまう。なんだか観察されているような気分になるのだ。

そんなわけで、私は赤城くんがどうも苦手だ。あの頃から今もずっと。

「おまたせ、沙耶。じゃあ赤城、またな」
「はい、また。お邪魔しました」

用事が済んだらしい赤城くんは、丁寧に挨拶をして帰っていった。
昔から相当頭がよかった赤城くんは、誰に対しても敬語だし、所作が綺麗だ。
今は、医師免許のために勉強を頑張っているらしいと、翔太が教えてくれた。

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