さいごの夢まで、よろこんで。

驚きはしたものの、別に嫌じゃないからされるがままの私。
思えば翔太とこんな風に手をつなぐのは、初めてだ。冗談で腕を組んだり、ふざけて背中に飛び乗ったりしたことはある。だけど、こんな風に、まるで恋人みたいにつなぐなんて、初めてのことでちょっとドキドキした。
だけど、ちっとも嫌じゃなかった。そうするのが自然なことのようにさえ思えた。

つながれた手のほうが気になって気になって、それから後の映画の内容はあんまり覚えてない。
あんなに感動してたのに、涙は一瞬で引っ込んだ。

映画が終わってだんだん席が空き始めると、翔太は自然に手を離して、立ち上がった。

「…いつまで座ってんだよ。ほら行くぞ」
「あ、うん」

泣き止むまで、って言ってたのに、結局最後まで手はつながれたままで。
少し冷たいはずの翔太の手のひらに包まれて、だけどすごく温かくて、その感覚はしばらく消えていかなかった。

映画館を出ると、外は予報外れの小雨が降っていた。
二人とも傘を持ってない。ということで、すぐ近くのカフェに入って時間を潰すことにした。

「くっそ、雨降るとか聞いてないし」
「あ、でもすぐやみそうだよ」
「なんでわかるんだよ」
「勘!」

そんなことだろーと思った、ってため息をついて、翔太は運ばれてきたコーヒーに砂糖を入れた。
知ってる。翔太はいつも、ミルクは入れずに砂糖をちょっとだけ。いわゆる、微糖派。

私がいつも砂糖とミルクをたっぷり入れてると、「ありえねー」って馬鹿にしてくる。それにムカついて、無理やりブラックで飲んでみたことがあったっけ。
慣れない苦さに悶絶してたら、今度はゲラゲラ笑ってきて。
本当に、翔太って昔から冷たい。
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