さいごの夢まで、よろこんで。

「夏子の彼氏はね、さっきの映画で爆睡してたらしいよ。夏子怒ってた」
「気持ちはわからなくもないな」

翔太は頬杖をついて、うんうんと頷いた。実際寝なかっただけまだ良かった。チケット代もったいないし。

「付き合ってる人とあんな映画見るってさ、なんかすごいよね。自分達は別れないーって自信ないと、ツラくなりそう」

まあ、別れるって思いながらも付き合ってる人達なんて、そういないと思うけど。でも世の中には、ワケありの恋愛をしてる人達は、きっと私が思ってるより多いだろう。

「……お前は、」
「ん?」

翔太が、珍しくためらいがちに口を開いた。

「お前は、あんな風に、急にどっか行ったりしないよな」

心臓が、止まるかと思った。
いや、止まる予定はあるんだけど、心臓麻痺みたいな感じで、一瞬で止まりそうになった。
どうしてそんなこと聞くの。

「ほ、ほかに行くところなんてないよ。私は今の生活が好きだから」
「……だよな」

翔太が望んだような返事が出来ただろうか、私は。
だけど、目に見えてホッとした様子の翔太に、胸がちくちく痛んだ。この痛みは、肝心なことを言えてない自分への戒めだ。
翔太といるととても楽しいし、幸せだ。だけど生きている限り、この痛みから解放されることはきっとない。

「……ていうか翔太、びっくりしたよ!急に手にぎってきたからー」
「え、ああ…」

なるべく明るく聞こえるように、さっきの話題から無理やり引き離した。
不自然に思われたかもしれないけど、悲しいことばかり考えてると、俯いてしまいそうだったから。


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