さいごの夢まで、よろこんで。
次の瞬間、私の左手は、翔太の右手に包み込まれた。
「今日は、こうやって歩いてもいい?」
「!」
まただ、またあの顔だ。
”私が知らない翔太”の顔。
いつもだったら、そんなふうにわざわざ確認とったりしないのに。映画館のときより、もっとしっかりつながれた手に、なぜかドキドキした。
私が何も言わないと思ったのか、返事を聞かずに前を向いて歩き出す翔太。
その隣で、うつむいてしまう。
おかしいな、いつもだったら、こんなにドキドキしないのに。赤くなってる気がして、顔が上げられない。
悔しいから、その手を負けじとにぎり返した。
それから、私は翔太の手を引っ張って、色んなお店に入った。
その結果、私が可愛いって言ったものに翔太がケチをつけてお店を出る、という流れが続いて、結局何も買えない状況だ。
「あ、俺コレ買う」
急に、翔太が立ち止まってそう言った。
そこは時計屋さんの前で、ショーケースに並べられている一つを指差している。
「時計?こんな時計、何に使うの?」
「ばかやろう、男には男の好みってもんがあんだよ」
翔太が買うと言った時計は、置き時計でも腕時計でもなく、懐中時計だった。
丸いところがぱかっと開いて、片側は時計、もう片側には写真が入れられるようになっている。
店員を呼んで実際に手に取って、少しのあいだそれを眺めた翔太は、他の商品を一切見ることなくレジへと進んだ。
そのあいだ私は、隣のお店に並ぶアクセサリーを、ただぼーっと眺めていた。